「妊娠中からお腹の赤ちゃんの言語発達を促す」といった広告を見たことがありますか?

子育てをしていると、ことばを含めたさまざまな技能を子どもに早く身につけさせないと……といったプレッシャーを感じるかもしれません。いわゆる「早期教育」に特化した市場があるなかで、赤ちゃんが生まれる前、つまり胎内にいるときから教育を始めることは魅力的に見えることでしょう。だって、妊娠中のおよそ9~10ヶ月間もの間、学びを先取りするチャンスが得られるのですから! 語彙テープや特別な音楽などの「教育」メディアを胎児の近くで流すことが、子どもの言語習得に役立つと販売者はよく主張します。けれども、はたしてそのようなことが本当に可能なのでしょうか?

実は、子どもが胎内で言語に慣れ親しむために、もっと簡単で気軽にできることがあります。その前に、胎内にいるということがどのような状況なのか、まずは想像してみましょう。プールで水中にいるときのように、胎内で子どもは液体に囲まれています。水中で人の会話を聴くことをイメージすると、音が歪んでいて、せいぜい発話の大まかなリズムくらいしか理解できないことが想像できると思います。胎内では、最もクリアに聞こえるのはお母さんの声です (ただし、これも液体を通して子どもに届きます!)。したがって、他の養育者の声やテープの音などは、たとえお腹の近くで話しかけたり流したりしたとしても、明瞭に聴こえるわけではないのです。

もうひとつ重要なことは、大人と違って、胎内の赤ちゃんの感覚器官はまだ十分には発達していないということです。聴覚器官もまさに発達途上であるために、胎児の聴覚は生まれたあとの赤ちゃんの聴覚ほど正確ではありません。赤ちゃんがある程度音を聞き取れるようになるのは、妊娠の後半になってからだとされています。

テープやCDにお金をかける代わりに、おなかの赤ちゃんに言葉を教えるお手軽な方法があります。たとえば、お母さんがいつものように自然に話をすることが挙げられます。もちろん、何時間も話す必要はありません。いつもと同じくらい話すだけで、子どもは母語に共通する音や母語がもつリズムに慣れ親しむことができます。とってもお手軽 (そしてきっと効果的) な方法ですね!

科学的な参考資料:

Moon, C., Lagercrantz, H., & Kuhl, P. K. (2013). Language experienced in utero affects vowel perception after birth: A two‐country study. Acta Paediatrica, 102(2), 156-160.

Childs, M. R. (1998). Prenatal language learning. Journal of Prenatal & Perinatal Psychology & Health, 13(2), 99-121.