赤ちゃんはどのようにしてことばを学び始めるのですか?
一見すると、言語を学ぶときに一番大変なのは、それぞれの単語の意味を理解することのように思われます。例えば、「いぬ」という単語は“ふわふわしていて吠える動物”を指すのだということを理解する必要があります。しかし、単語の習得で大変なのはそれだけではありません。大人はつい見過ごしてしまいがちですが、「ふわふわのいぬ」と言ったときに、「ふわふわ」や「いぬ」は単語だけれども、「わのいぬ」や「ぬ」はそうではない、ということを理解することも、とても大変なことです。読者のみなさんも、外国語を聞いていて、二つの単語や、単語の一部だと思っていたものが、実は一つの単語だったという経験をした方がいらっしゃるのではないでしょうか。もし「あわだてき」という言葉を知らなければ、「あわ」と「だてき」という2つの単語かな?と思ってしまうかもしれません。ところが、生後6ヶ月の赤ちゃんは「赤ちゃん」や「ミルク」といった単語がどこで始まり、どこで終わるのかを理解しているようです!
このとき赤ちゃんが使う手がかりの1つとして、言語のリズムにおける切れ目、つまり「韻律の切れ目」(prosodic break) というものがあります。例えば、単語と単語のあいだに「間」ができること、などが当てはまります。‘The birds sing in the morning’ (鳥は朝に鳴く) という英語の発話では、 ‘birds’ (鳥) と ‘sing’ (鳴く) あいだに間があります。また、韻律の切れ目は、イントネーションの違いに現れることもあります。英語では、名詞の発音は通常「強い音 ⇒ 弱い音」というイントネーションの順序が存在します。 ‘mother’ (母) と発音するときには、‘MOther’ と発音し、‘moTHER’ とは発音しない、といった具合です (※大文字部分が強く発音される部分です)。ほかにも、韻律の切れ目はひとつの単語の中での音の伸長に現れる場合もあります。英語のような言語では、文末の単語は、文中のほかの単語よりも長く発話されることがあります。 ‘Look over there’ (あっちを見て) の ‘there’ (あっち) は文末にあるので長く伸ばして発音されますが、同じ単語でも ‘There are so many birds in the sky’ (お空にたくさん鳥がいるよ) のような場合であれば、そのようには発音されません (下記の音声ファイルを聞き比べてみてください!)。
こうした韻律の切れ目は、ひとつの単語の途中で起こるのではなく、単語と単語のあいだで起こります。例えば、「きょうりゅう ほえたね」という発話の場合、「きょうりゅう」後に間があくことはあっても、「きょう」の後に間があくことはありません。このように、発話におけるリズムの変化を聞くことで、赤ちゃんは単語がどこで始まり、どこで終わるかを理解し始めます。
韻律の切れ目は、私たちが話すときに自然に行っていることです。ですから、赤ちゃんに話しかけることで、実はすでに言語習得の手助けをしていることになります! 特に幼い赤ちゃんに話しかける時には、気付かないうちに、この切れ目を普段よりも強調して話していることもあります (コミック「大人が赤ちゃんに話しかけるとき、独特な話し方になるのはなぜですか?」)。
次回は、世界中の言語において、赤ちゃんが言語を学ぶために使っている様々なリズムについて紹介します!
科学的な参考資料:
de Carvalho, A., Dautriche, I., & Christophe, A. (2016). Preschoolers use phrasal prosody online to constrain syntactic analysis. Developmental Science, 19(2), 235-250.